今日は、川越の実家にいる。
朝早く家を出て、池袋から東武東上線に乗った。
何度乗ったかわからないこの路線も、今日は少しだけ違って見えた。
今回、川越に戻ってきた大きな目的は、実家に残った最後の家具を処分すること。
これまで何度も片付けに来た。
袋に詰めて、運んで、捨てて。
「よくこんなにあったな」
そう思いながら、一つずつ家の中から物を減らしてきた。
でも、不思議なものだ。
物がなくなればなくなるほど、逆に思い出が見えてくる。
ここに棚があった。
ここに父が座っていた。
この部屋で、こんな話をした。
何でもない景色だったはずなのに、なくなって初めて、その場所に時間が積み重なっていたことに気づく。
今日は父の墓参りにも行ってきた。
報告することは、たくさんある。
会社をつくったこと。
MINIBAKKAを始めたこと。
大好きだったMINIを、今度は仕事にしていること。
58歳になっても、まだ新しいことばかりやっていること。
「相変わらずだな」
父なら、そう言うかもしれない。
考えてみれば、人生もMINIと似ている。
新しいクルマなら、もっと速くて、もっと快適で、もっと便利なものはいくらでもある。
それでも僕はMINIが好きだ。
古いローバーミニには、今のクルマにはない不便さがある。
でも、その不便さまで含めて愛おしい。
人生もきっと同じなんだと思う。
効率よく、無駄なく、何も失わずに生きられたら楽なのかもしれない。
でも実際は、そんなふうにはいかない。
出会って。
別れて。
手に入れて。
手放して。
遠回りして。
その全部を積み重ねて、今の自分がいる。
実家から家具がなくなっていく。
少し寂しい。
でも、なくなるのは家具であって、そこで過ごした時間までなくなるわけじゃない。
むしろ今日、はっきりわかった。
片付けていたつもりだったけれど、
僕がやっていたのは、
思い出を捨てることではなく、
思い出を自分の中へ移すことだった。
木曜日には、奈良へ戻る。
そしてまた、いつもの生活が始まる。
ガレージには、赤いローバーミニが待っている。
ドアを開けて、小さな運転席に座って、キーを回す。
あのエンジン音を聞いたら、きっとまた前を向く。
人生には、バックミラーが必要だ。
でも、ずっとバックミラーだけを見て走ることはできない。
ときどき後ろを振り返りながら、
それでも進むのは前だ。
58歳。
まだまだ、走ります。
MINIと一緒に。
そして、これまで出会ったすべての人との時間を乗せて。
MINIが好きだから走るんじゃない。
走り続けたい人生だから、僕はMINIが好きなのかもしれない。
MINIBAKKA